更新日:2023年9月1日
9月は、土屋禮一《鯉》 を紹介します。
「月替わりコレクション紹介」について
《鯉》
制作者:土屋 禮一(つちや れいいち)
生没年:1946年生まれ
制作年:2012年
材質:紙本彩色
寸法:79.0cm×122.0cm
形状:額装
土屋禮一は、岐阜県生まれの日本画家である。
日本画家・土屋輝雄(つちや てるお・1909-1962)の長男として生を受け、画家となるべく育てられた禮一は、小学校1年生から高校入学の春に父が歿するまでの9年間、1日1枚絵を描くことを義務付けられたという。1964年に武蔵野美術大学日本画科に入学し、在学中に同郷の日本画家である加藤栄三(かとう えいぞう・1906-1972)・東一(かとう とういち・1916-1996)兄弟の知己を得た。そして、1967年に卒業すると加藤東一に師事した。また、同年の日展で初入選し、1969年には特選・白寿賞を受賞した。日展や日春展を中心に活躍し、2005年に日展で文部科学大臣賞、2007年に日本芸術院賞を受賞し、2009年に日本芸術院会員となった。
本作品は、2012年に開催された個展「土屋禮一展ー行雲流水ー」の出品作である。本作品には、師の東一ゆずりの重厚な色彩によって水中に泳いでいる鯉が描かれている。水面の色と鯉の色とが混ざり合い、叙情的な雰囲気を醸し出している。土屋は、本作品について「加藤栄三・東一両先生には印象深い鯉の作品が何点もあり いつか僕なりの鯉を一点描きたいと願っていました」と述べており、思い入れのあるモチーフだったことがわかる。
本作品は個展で展示されていたところ、訪れた油井一人(ゆい かずと・1936-)の眼にとまり、当館へと寄贈された。油井一人は個展を鑑賞した際に《鯉》に釘付けとなり、しばらく動けなくなったという。後に『新美術新聞』に、「凄い作品だなぁ、嬉しいなぁ、来てよかったなぁとひとり口走っている自分がいた。数多の鯉の作品も観てきたが歴代の作品を凌駕する名作に躍りでたなぁと感じた」と感想を記述している。
佐久市は、言わずと知れた鯉の名産地である。「佐久鯉まつり」の開催や、「佐久の鯉太郎」の佐久市特別観光PR大使への任命などを行っており、鯉は観光資源のひとつともなっている。佐久市に《鯉》が寄贈されたことについて、「佐久と云う 鯉と一番縁のある場所に納まり、油井家先代からのご縁共々うれしく思っています」と土屋は語っている。
鯉と縁の深い佐久で、油井家と土屋の縁を深く紡いだ《鯉》は、今日もまた泳いでいる。
【参考文献】
『新美術新聞』No.1283(株式会社美術年鑑社、2012年6月21日)
土屋禮一著『土屋禮一画集』(株式会社求龍堂、2013年)
《鯉》は、9月16日(土曜日)より開催予定の企画展「開館40周年記念 油井コレクションとその時代(後期)油井一二コレクションから佐久市立近代美術館へ」で展示します。
毎週月曜日(休日の場合は開館)
展示替え期間(不定期)
年末年始期間(12月29日~1月3日)
ほか臨時休館することがあります。
午前9時30分~午後5時