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第6回 集団予防接種のさきがけは江戸時代の佐久から

更新日:2021年3月7日

館長の豆知識(6) 集団予防接種のさきがけは江戸時代の佐久から

猛威をふるう天然痘との闘い

 五郎兵衛記念館収蔵古文書から知られていない佐久の良さをお伝えするシリーズ、第6回は江戸時代猛威を振るっていた恐怖の伝染病「天然痘」対策として、日本で初めて行われたともいえる佐久地域での画期的な集団予防接種についてです。

 ワクチンの心配は昔も今も
 新型コロナウィルスの流行が深刻です。幸いなことにワクチン接種が具体化しそうです。しかしながら世の中ではワクチン投与による副作用が取り沙汰され人々を不安にしています。
 歴史は繰り返すといいますが、明治時代まで10年から30年毎に大流行を繰り返し、人々を恐怖に陥れていた伝染病に「天然痘」があります。この伝染病の恐ろしさは、飛沫感染してしまうことにありました。一旦流行が始まると地域の80%以上のものが感染し、その死亡率は25%から幼児にあっては50%、また、幸い一命を取りとめても顔面に残る痘痕、失明や身体の障害など深刻な後遺症は感染者の人生を暗転させてしまいました。

『種痘』の推進に医師生命をかけた人たち
 天然痘の予防には「種痘」の実施が最も安全で確実な対策でした。しかし、当時の日本社会では「種痘」ワクチン投与で、天然痘に発病してしまうとか、牛由来製造のワクチンのため牛になってしまう。というような偏見と思い込みにより「種痘」への反発は厳しく、推進する医師は投石などの迫害を受けるような状況で、それは吉村昭の歴史小説「雪の花」「種痘伝来記」などに活写されているとおりです。
 そのため、漸く種痘が広く国民に行き渡ったのは天然痘の明治三大流行を終焉させ「種痘法」が整備された明治42年(1909)のことでした。
 ところで、五郎兵衛記念館における天然痘関係の所蔵文書においては、幕府領の五郎兵衛新田村が「疫病神払い」「疫病神祭り」「疱瘡見舞い」などの迷信深い文書が多いのに対し、小諸藩領の村々からは多数の「種痘実施」の通達書が関係村の「相浜村」「御馬寄村」「八幡村」「桑山村」「蓬田村」「塩名田村」から保管を託されています。

 昔も今も佐久平は医療の先進地
  地方自治は現代社会に限らず、江戸時代も地方の為政者はそれぞれ特色ある施策を推進していました。
 天保3年(1833)、13歳で第9代小諸藩主となった牧野康哉(まきのやすとし)は、施政にあたり領内を巡視し、領民の暮らしと健康に心を配ることを常としていました。その施策には子育て支援のための「育児法」、高齢者対策の「養老法」を制定しています。そうした中でも彼の心を悩ましていたのが領内に蔓延する天然痘の災禍でした。
 嘉永2年(1849)、藩主牧野康哉に朗報が届きます。藩士の縁者が長崎でオランダ伝来の種痘の接種に成功したという風聞でした。
 その蘭方医は桑田立斎といい、その養父である桑田玄真は佐久に生まれ、旧姓は角田、江戸に出て小児科医として天然痘予防に苦心した人でした。
 藩主牧野康哉は、桑田立斎が旧家臣筋であることもあり、特別に3名の藩医を桑田の下で嘉永3年(1850)から2年種痘法を学ばせ、嘉永4年(1851)8月に領内で種痘を開始しました。
 しかし領民の種痘への不安感は除き難く、そのため藩主は、二人の幼い姫君に種痘を受けさせ、その安全性を身をもって示したうえ、その年は藩主の指図に従う藩士とその家族、嘉永5年(1852)1月からは領内での種痘を推進しました。
 リンクに添付したのは種痘を恐れる領民に兎にも角にも種痘を受けるようにとの代官からの達書です。
 明治政府が国策として「種痘規則」を制定し種痘を始めたのは明治7年(1874)のことですから、牧野藩主の嘉永4年(1851)の先進的な衛生行政の尊さ、領民の恩恵がわかります。

 最後に、医学書、専門書、そして法令や公文書では「天然痘」でなく「痘そう」と呼ぶことが決まりとなっています、しかしこの伝染病がウィルスの飛沫感染による自然流行が原因なこと、また、江戸時代から現代においても「天然痘」と人々が呼び慣れてるいることから「天然痘」を本文中に用いました。
 また口絵に紹介した依田稼堂所持「医聖ヒポクラテスの図」について、ビザンティン美術の国際的権威者の共立女子大学教授木戸雅子先生から、古代ギリシャの医療の聖人ヒポクラテスではなく、教父として尊敬されている古代ビザンティンの神学者ヒエロニムスであるというご教示をいただいております。
 この両者が混同された歴史物語がまた幕末日本ならではの大変勉強になる話なので紙面を改めて後日ご紹介します。                     佐久市五郎兵衛記念館館長 根澤茂(ねざわしげる)
 

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