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第27回 五郎兵衛用水の掛樋と掛渡井(かけひとかけとい)

更新日:2022年9月15日

困難と立ち向かってきた佐久の先人たち

江戸時代通して新田村最大の悩みとは
 江戸時代の佐久平村々には、早朝・深夜、季節構わず突然発令される、中山道助郷という公用で旅する人達の荷物を無償で運ぶ、公の使命がありました。
 佐久市内沓沢区など一部地域と、岩村田藩領上田市依田地域は、下諏訪宿から和田峠を越えて長久保宿までの区間でした。
 その大変さは、指定集合場所が下諏訪宿なら、沓沢村からは瓜生坂、笠取峠、和田峠を越え、下諏訪まで一泊二日、それから重い荷物を背負い、厳冬期などは積雪の中、満足な防寒具もなしに越えて来ていました。社会の仕組みを維持するため、祖先たちが果たしていた労苦に、尊敬と感謝しかありません。
 ところで、佐久平の村々にはさらに、中山道千曲川往還橋の架橋義務がありました。『日本100名橋』鹿島出版会(1998年)松村博著に、長野県下では、木曽路の桃介橋と千曲川の中津橋だけが選定されたのも、『中山道筋千曲川川越しものがたり』(1999年)小林基芳著に紹介された、江戸時代に84回の架橋作業という、佐久の人々の苦心の歴史からのことでしょう。
 この国役とも呼ばれた、災害で落橋の都度の千曲川往還橋架橋工事に、江戸時代の五郎兵衛新田村名主栁澤家文書で、当時の人々はこの作業から除外されることを再三再四江戸幕府に願い出ています。
 それというのも、千曲川往還橋が洪水で落橋すると、五郎兵衛用水の用水施設も必ず、大規模被害を被っていたからです。
 水稲は実りの秋を迎え、灌漑用水を大量に必要としており、また用水は人々の生活用水でもありましたから、用水の断流はむらの存続に関わり、用水施設復旧は時間との戦いでした。ですから時を同じくして、千曲川往還橋復旧作業へ重ねての出役は、大変厳しいものがありました。

江戸時代甚大な災害被害の用水施設とは
  五郎兵衛用水で山堰と呼ばれた上流部分は、鹿曲川に沿った断崖絶壁に施工されていました。今も昔も台風が襲来すると、用水施設は鹿曲川の浸食と、片倉山から鹿曲川へ押し出す谷川の鉄砲水による被害が避けられません。
 現在の用水施設は、用水路と交差する谷川からの土石流被害から用水路を守るため、長さ7キロメートルという長大な地底トンネルに改良されています。今から半世紀前、大改修が施されなかった頃は、水路に大岩が頻繁に転落したり、用水施設を土石流が破壊したりが常でした。
 その災害復旧の歴史について、『五郎兵衛記念館古文書調査報告書第15集』(令和4年3月・佐久市教育委員会)に、当館職員山浦修一さんから、度重なる災害復旧工事の詳細について、詳細な古文書調査の報告がされています。

用水を送るため様々な苦心が
 1630年(寛永3年)市川五郎兵衛は、土豪が開発した用水では、国内先駆けと言われる五郎兵衛用水の開発を成功させます。
 この用水で開かれた村の人々は、江戸時代が終わり明治・大正・昭和と、時代は変わっても、江戸時代初めの人々が施工したそのままの用水施設の維持管理に大変な困難をしていました。
 それは開発当時は、コンクリートがない時代でしたので、素掘りのトンネル、泥を積み上げただけの用水施設を、大切に維持管理して通水させていました。しかし1950年代(昭和25年)に至ると、用水施設は老朽化し、修繕不能となり近代的大改修が望まれました。

 改修工事ができない300年間変わらない用水施設
 しかし昭和26年(1951)国営で、最高の技術をもっての改修工事は、用水路の改修により旧来の慣行と相違し、大量の用水取水が想定されることから、鹿曲川下流で用水を利用している用水関係者との水利権の調整や、改修により20kmある用水路が7kmになることから、従来の用水路が廃止され、今まで通りに用水を利用できなくなる農民の反対運動等により、国営事業で計画された用水の全面改修は、それからまた20年間も停滞してしまいます。
 この難題が解決されたのは、『佐久の先人』(平成26年発行佐久市教育委員会)に選ばれている故中澤周三元県議。当時の五郎兵衛用水理事長の強い願いにより、国直轄事業が望めないことから、長野県農政部が県営事業として長大用水トンネルや、国内最大落差のサイフォン工等を、電卓でさえない時代、算盤と机上の計算で無事立派に完工させています。(根澤茂)

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