更新日:2023年4月1日
佐久市立近代美術館は美術年鑑社初代社長の故油井一二氏から佐久市に寄贈された美術品を核として1983年に開館しました。油井コレクションは、特に1980年頃に日本の公募団体に所属していた作家の、若い時期の秀作が集まる大変貴重なコレクションと考えています。今年度は当美術館が開館して40周年を迎える節目にあたり、企画展、コレクション展では油井コレクションを多角的にとらえていくような展示やワークショップ等を計画しています。
また、2022年8月にICOM*世界博物館会議で新たに採択された博物館の定義や、2023年4月施行の(改正)博物館法のもと、美術館をとりまく状況や果たすべき役割は40年前と比べ大きく様変わりしています。こうした中で市民の皆さまに寄り添った意味のある存在として美術館を運営していきたいと試行錯誤を重ねているところです。
ICOM世界博物館会議で採択された博物館の定義とは次の通りです。ICOM日本委員会が2023年1月に和訳を発表しました。
「博物館は、有形及び無形の遺産を研究、収集、保存、解釈、展示する、社会のための非営利の常設機関である。博物館は一般に公開され、誰もが利用でき、包摂的であって、多様性と持続可能性を育む。倫理的かつ専門性をもってコミュニケーションを図り、コミュニティの参加とともに博物館は活動し、教育、愉しみ、省察と知識共有のための様々な経験を提供する。」
この博物館の定義の採択は、博物館が自館を含む共同社会の変革に取り組もうとする姿勢の表明と言えるでしょう。SDGsも意識した内容となっています。ここには、これまで考えられてきた「絵画や彫刻を見られる場所」というような美術館像に比べて、役割が多様化した博物館(美術館)の理想像が示されています。「コミュニティの参加とともに活動し、教育、愉しみ、省察と知識共有のための様々な体験を提供する」ことが実現すれば、佐久の子ども達は豊かな教養、情操を身にそなえ、さまざまな課題を解決する力を蓄えられるでしょう。そのためには、これまでのように前例を踏襲するだけでなく、活動の方法そのものを自ら変容させていくような知的で創造的な行動の姿勢を、大人も一緒に学ぶことが大切です。将来に向かってコミュニティ全体で意識を変えていく努力が求められています。当美術館の身の丈を考慮すれば、すぐに目に見えて変わることは難しいと思われますが、確かな変容を少しずつ実現していくことは充分に可能だと思います。
「包摂的(原文ではinclusive)である美術館の役割や在りよう」をどのように実装するのか、「多様性や持続可能性」をどのように担保していくかについて、私たちは考え続けています。
「さまざまな思いを抱えた人々が活力や安らぎを得る場」として、社会課題の解決につながるような知見や、ひらめきを得る場を美術館に作り続けていくことが、私たちの使命だと考えています。一般に、自分の身のまわりに関心を持つことから美術的な行動が始まります。丁寧に、よく見ることによって対象(他者や自分)を知り、想像、工夫することよって理解が進みます。自他それぞれを深く理解する人が増えれば、多くの社会課題は解決に向かうと信じています。美術には、そのような理解を促す力があります。そして、私たちは日常の手の届く場所で、さまざまな方法を工夫することができます。当美術館は、そうした皆さまの探究のお手伝いをしたいと考えています。
佐久市立近代美術館では現在、市民の皆さまの宝物(収蔵資料)3416点を保管しています。佐久地域特有の風土に根ざした文化や伝統を守ることや、次の世代に引き継ぐこと、現代における新しい価値を確かな裏付けによって残すことも、当美術館に与えられた役割と考えています。収蔵資料の調査研究、修復を堅実に行いながら、地域ゆかりの作家や収蔵作家の展覧会を企画していきます。このことを広く市民の皆さまに伝え、広義の教育現場において活用していただくことを願っています。今後とも、ご理解とご協力をお願い申し上げます。
館長 日比野 ルミ
註*International Council Of Museums
日比野ルミ/美術家
「佐久市立近代美術館ニュース_No.2」発行(2023年3月27日)
「佐久市立近代美術館ニュース No.1」を発行しました(2022年4月28日)
毎週月曜日(休日の場合は開館)
展示替え期間(不定期)
年末年始期間(12月29日~1月3日)
ほか臨時休館することがあります。
午前9時30分~午後5時