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第13回 尾高長七郎を守った木内善兵衛・渋沢栄一そして市川五郎兵衛を結ぶ糸

更新日:2021年3月11日

知識と行動の哲学『論語』

  日々暮らしを送るとき心の指針として東洋の叡智『論語』に学ぶことは少なくありません。 
 徳川家康から三度の誘いを断り、農業用水路開発に転じた市川五郎兵衛、一切の犠牲を顧みず尾高長七郎を守った木内善兵衛、徳川政権打倒、外国人排斥テロを計画しながら、一転して将軍に仕えフランスへ行ってしまう渋沢栄一、凡人には理解できない彼らの行動の裏付けに『論語』があります。
 それは近世では佐藤一斎から佐久間象山、そして木内芳軒に至る『知識と行動の哲学』でした。真理を求め、渋沢栄一と尾高敦忠は大量の藍玉と巨額資金が動く営業活動をしつつ、善兵衛宅の漢学塾「静古軒」で多くのことを学びました。
 明治33年1月のことです。尾高敦忠は懐かしい木内善兵衛宅に文を送っています。それは、藍の仕事がどんなに多用の時でもいつも木内家へお伺いし、お教えを受けることがどれほど至福の時であったかと振り返っています。

群馬県南牧村と渋沢栄一
 当時渋沢たちが深谷から信州佐久を目指すとき、群馬県南牧村市川五郎兵衛屋敷から荒船山の山頂近く星尾峠を越え、信州内山峡へ辿る道筋があります。
 当館と関係が深い南牧村は限界集落、高齢化率日本一、集落消失で知られ、明るい話題はお隣下仁田町で井森美幸さんがお育ちですが、南牧村には素晴らしい歴史と文化がありながら、それが知られていないことが残念です。

 歴史の南牧村です。想像の渋沢栄一旅姿というと手っ甲脚絆に草鞋がけ、貧相な身なりの行商人が浮かぶ方がいますが、当時の彼について上毛新聞社『上毛及び上毛人』昭和10年(1935)11月号に、南牧での逸話として『渋沢栄一翁と馬喰さつき』として残されています。
 お話は渋沢栄一が紺屋での営業と俳諧談義に熱心のあまり、ほっておかれた愛馬が紺屋の主人が大切にしている皐月の盆栽をあたり構わず食べ尽してしまった顛末記です。
 記事を読むと、やはり痩せても枯れても年商1万両の大店の若旦那、大失態を起こしても詫びとして、紺屋だからと『愛染明王』そして年月日だけ筆太々と揮毫し、記名は将来偉くなるから其の時書くと軽妙に切り抜けていますし、愛馬での移動、そして今は山林と化していますが南牧村には広大な耕地があり、農作業をするうえで藍染めがマムシや毒虫からの被害防止に効果があるため、大量の藍玉の需要があった。紺屋の主は庄屋、そして股旅草鞋の俳人連溜宿の経営者でもあると分かります。道中の至る場所で、微笑ましい口碑を残しているのも渋沢らしいです。  

渋沢栄一と尾高長七郎の思い出の松

 佐久市下県の木内善兵衛邸と、道を挟んで木内芳軒子息の旧宅があります。邸内道沿の老松ですが、佐久地方の庭園松は女松と呼ばれる赤松、それも丈を低く仕立てるが普通なのに、木内邸の松は男松と呼ばれる黒松、それもまるでポプラの木のように一直線に天を衝いて伸びています。
 松といえば渋沢栄一に面白いエピソードが残されています。NHK大河ドラマ館が都内に初めて設けられた北区飛鳥山公園、渋沢栄一は自邸の道向かいの松が枯れたとき、心の友、人生の羅針盤を失ったが如く深く悲しみ、儒官に依頼し枯松の頌徳記文を整え、祭祀を挙行し『枯松を祭る文の碑』まで建立していることです。
 漢詩漢文は益荒男の心の中を本当によく見通して語るといいます。『枯松を祭る文』については、北区七社神社のホームページ『七社神社枯松』と検索すれば、中村洋子さんが『北区飛鳥山博物館研究報告』第五号に発表している「北区西ヶ原二丁目所在『祭枯松文』碑」により詳しいです。
 栄一は高崎城乗っ取り事件以後は国事に奔走され、二度と再び佐久の地を踏むことはありませんでした。しかし『枯松祭文』熟読すると心はつながっていたようです。
 そして彼が後に地域振興のため起業する火薬製造、製紙、繊維産業等は、元長野県立歴史館課長の阿部勇さんの地道な地域調査『岩村田藩飯沼村古文書調査』の中から発表されているように、災害に負けない村々の岩村田藩領上田市丸子依田地域の人々が起業していた産業であり、渋沢が藍玉営業の現場で見ていた日常光景でした。やはり信州は渋沢栄一とは生涯算盤と論語で繋がっています。
                                                                    佐久市五郎兵衛記念館館長 根澤茂 (ねざわしげる)

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