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第1回 妖怪の世界 ~件(くだん)と雨彦(あまひこ)~

更新日:2021年3月7日

館長の豆知識(1) 妖怪の世界 ~件(くだん)と雨彦(あまひこ)~

 新型コロナウィルス流行などもあり妖怪「アマビヱ」が人気です。この「アマビヱ」が最初に登場したのは、江戸時代末の弘化3(1847)年のことでした。この頃の日本列島は飢餓と自然災害が多発し、生きていくには実に大変な時代でした。
 五郎兵衛記念館が収蔵する約7万点の古文書の中に、土屋芳彦家文書1,107件があります。この文書の特色は、江戸時代に大流行した華道池坊を地方の人々が熱心に学んでいた活動の記録にあります。
 この華道の民間伝播を記録とした古文書群としては、国内有数の量を残した土屋彦左衛門(1769~1839)とは、江戸時代の初め開発された「世界かんがい施設遺産」に登録されている五郎兵衛用水の維持管理における最高責任者を代々務め、その職責から用水の安定供給に資するため、天象、地象に深く関心を持ち、実に様々な貴重な記録も後世に残してくれています。
 土屋彦左衛門が伝え残した記録の中に、江戸時代の「アマビヱ」流行に先立つこと11年前、天保7(1836)年12月、丹波の国倉橋山の山中に出現した妖怪「件(くだん)」、そして天保14(1843)年「アマビヱ」と同じく肥後熊本の海中に出現した「雨彦(あまひこ)」があります。
「アマビヱ」は「アマヒコ」の誤記ではないかという説が、1999年に湯本豪一氏より指摘されているとおり、土屋彦左衛門の残した記録は大変貴重なものです。
 興味深いのは、これらの妖怪たちを描いた図を貼っておけば、何れも間違いなく、家内安全・無病息災・一切の禍を免れて、大豊作になる。という非常にめでたい獣であると記されています。
 先の天保7年は、天保の大飢饉の年であり、天保14年は北海道大地震、弘化3年には善光寺大地震というように、この当時は、幾度も異常気象と自然災害が繰り返えされ、稲の作付けをしても秋に収穫がなく、記録によれば稲藁を食べざるを得ない、というように生きていくには非常に困難な時代の人々の心模様が伺える貴重な記録です。
 これは、異常気象で作物が実らず辛い中であっても、可能性を信じて、種を蒔き続ける人々への心温まる応援歌(エール)とも読み取ることができます。

[書き下し文]                 [現代語訳]

雨彦全図                      雨彦全体図

不出来に御座候                 不出来で御座います。
天保十四卯五月中旬               天保十四年(1843)卯五月中旬に
肥後国熊本海中に                肥後の国(現在の熊本県)熊本の海中に
毎夜猿の如くの声                毎夜猿のような声で
にて人を呼同家中                人を呼ので熊本藩家臣の
柴田五郎右衛門と申人見届            柴田五郎右衛門という人が見届に行ったところ
候処我はあまひこと申者此海中に         「私はこの海中に住むアマヒコという者である。
すむ也今年より六ヶ年の間豊年乍去病人      今年より六年の間は豊年だ。しかし病人が多く出て
多く人六部通り死すべき也我姿を見尋は      人々は六分通り死んでしまうだろう。ところで私の姿を尋ね見れば
其難を逃れ候まじ姿をうつし諸国へ        その難を逃れることができるであろう。私の姿を写し諸国へ
しらしむべしと申候て海中に沈み入る。      知らせなさい。」と言って、海中に沈んでいった。

アマビエ
写真2 江戸時代後期の弘化3年4月中旬(1846年5月上旬)に刊行された(木版画) 京都大学付属図書館所蔵

[書き下し文]                      [現代語訳]
大豊作を知らする                 大豊作を予兆してくれる
件と言獣なり                   件(くだん)という獣である。
右は天保七申十二月丹波の国、倉橋山の       これは天保7(1836)年12月に丹波の国、倉橋山の
山中に此図の身姿の牛あらわれ出          山中に図のような姿の牛があらわれた。
たり面は人に似たり                顔は人に似ている
件と言獣なり                   件という獣である。
むかし宝永二年酉                 昔のことであるが宝永2(1705)年酉の年の
十二月にも此件出たり               十二月にも、この件が出たことがあって
翌年より豊作打                  翌年から豊作が
続しも古き書に見へ                続いていたことが古い書物に書かれている。
たり尤も件と言                  もっとも、件という
字も人偏に                    字も人偏に
牛と書てよむ也                  牛と書いて読んでいる。
至て正直成る獣なり故物証文            正直である獣であるので、物事の証文の末尾に
と終わりにも如件と書も此縁            如件(くだんのごとし)と書いているのもこれが由来である。
也此絵図を張置ば家繁盛して諸病うけず       この絵図を貼っておけば、家内繁盛、諸病を受けず、
一切のわざわひをまぬかれ大豊作を守る       一切の災いを免れ、大豊作となる
誠に目出度獣なり                 誠にめでたい獣である。

うしさんのえ
写真4 参考資料ファンタジー事典「天保7年丹波国与謝郡瓦版の件(くだん)」

佐久市五郎兵衛記念館館長 根澤茂(ねざわしげる)

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