第31回 五郎兵衛用水の恵みによるおいしいお米
更新日:2023年1月12日
佐久の先人の苦心が認められ
世界かんがい施設遺産登録証 撮影五郎兵衛記念館
世界かんがい施設遺産登録の用水
2018年(平成30年)8月、国際かんがい排水委員会(ICID)国際理事会は、五郎兵衛用水を、世界かんがい施設遺産に登録しました。
その登録証は国際機関だけあって、外交文書と同じように格式高く、羊皮紙に手書きで作成されています。
そして認定理由には「日本国長野県佐久市にまたがる、信濃川水系鹿曲川に位置する五郎兵衛用水は、17世紀初頭に地域に所得の倍増や、農業生産の安定化、生活水準の改善をもたらした、かんがい施設を建設するため、独創的な測量や、革新的な建設技術がもちいられた。よってICID世界かんがい施設遺産に登録する。」と記されています。
(注) 国際かんがい排水委員会の(ICID)とは、International Commission on Irrigation and Drainageの略称です。
日本を代表する疎水として「日本の疏水100選」に認定されています。
大自然の豊かな恵みが水源
米・食味鑑定士協会の開催する「米・食味分析鑑定コンクール」国際大会が、令和4年小諸市で開催されました。4年ほど前の大会では、五郎兵衛米が金賞を受賞しています。
五郎兵衛米が美味しいとされるのは、地元米作り農家の熱意もありますが、お米の食味を決定するもののひとつに、土壌と水があり、五郎兵衛用水も大いに関係しています。
五郎兵衛用水土地改良区が管理する五郎兵衛用水は、平成18年2月、農林水産省の厳しい審査を受けて「日本の疏水100選」に選定されています。
それというのも、北八ヶ岳の原生林を集水域とする五郎兵衛用水の源水は、水源林の豊かな生態系により、雨水に含まれる水の富栄養化のもととなる窒素や、リンが除去され、逆にカルシウムとマグネシウムなど、天然ミネラルは雨水に比べると、倍増されているからです。
この用水水源林の働きの大切さは、長野県佐久地域振興局農地整備課が、五郎兵衛用水を見学する子供たちのために、分かり易く作成してくれた下記資料をご覧ください。(資料1)
五郎兵衛用水の恵みのお米は五郎兵衛米とブランド化されています。 撮影五郎兵衛記念館
五郎兵衛用水のかんがいする五郎兵衛新田の粘土
用水開発者、市川五郎兵衛が苦心して開発した、五郎兵衛新田は「五郎兵衛新田層」という粘土鉱物の特別な土壌です。
土壌と作物の関係について、後藤逸男東京農業大学名誉教授は『土の元素組成と粘土鉱物』(農業通信社)のなかで、粘土鉱物が良質米を生むと発表しています。(資料2)
同じような知見として、阿江教治農業博士は『土づくりのススメ―深堀!土づくり考』において、粘土の大切な働きを教えてくれています。(資料3)
このように粘土は、お米を栽培するために、大切な役割を果たしているようです。
『北佐久郡誌』掲載北佐久郡地質図
佐久の地質を明らかにしてくれた恩人
1955年(昭和30年)当時の北佐久町村会と、北佐久教育会は、地方研究の重要な文献として『北佐久郡誌』を6年の歳月をかけて完成させています。
その第一巻「自然編」に、長野電鉄の創設者で、志賀高原開発者の神津藤平の弟、神津淑祐(こうづしゅくすけ)東北大学名誉教授が、北佐久郡地質図の作成を担当しています。
日本岩石鉱物鉱床学会や、日本火山学会創設に尽力した神津俶祐博士は、その豊富な学識と経験を活かし、この地質図の作成のため、ご高齢にも関わらず自ら陣頭に立ち野外調査を指揮してくれました。
しかし残念なことに完成を見ることなく病に倒られ帰らぬ人となり、群馬大学の木崎喜雄先生が遺志を引き継ぎ完成させています。
両先生が苦心された現地調査の成果、北佐久郡地質図で、当時の五郎兵衛新田村だけ周辺市町村と色分けされ、まったく別な土壌とされています。
農耕作業が大変な特殊な土壌 五郎兵衛新田層はウクライナの大地に似ています。撮影五郎兵衛記念館
農業機械が沈み込む特殊な土壌
五郎兵衛新田の水田は、乾くと岩のように硬くなり、耕起する作業機械に無理な負荷がかかります。ところが水を含むと極めて軟弱となり、農業機械を沈み込ませてしまいます。
そのためこの地域では、水田の減反・転作の時代、レタスやパプリカのような西洋野菜から、麦から薬用ニンジンまで、実に多くの作物による水田転作に挑戦しました。しかしこの特殊な土壌条件から、試みに栽培した作物は、すべて全うな収穫に至りませんでした。
それというのも、今から2万3千年前。今の浅間山のある場所に黒斑山という火山があり、この火山があるとき大崩壊し、大量の火山泥流が流れ下り、千曲川や布施川をせき止めました。そして佐久平に大きな湖ができ、その湖底に粘土層ができました。
五郎兵衛新田層という不思議な耕土は日本列島の成り立ちにまで遡ります。資料出典 渡邊和輝、大塚勉『長野県東信地域における第四紀の地質構造』(信州大学環境科学年報42号)
お米を美味しくする五郎兵衛新田層
古い昔、湖に溜まった粘土や、ミネラルをたくさん含んだ泥を中心とした地層は「五郎兵衛新田層」と名付けられ、周辺地域とは著しく違った地質です。それが五郎兵衛田んぼの土壌です。
どうして五郎兵衛新田だけ湖の底になったかというと、佐久平は活断層がない極めて安定した地盤です。ところが五郎兵衛新田の南と北にだけ、断層構造があります。
専門的になりますが、長野県東信地域の地質構造について、詳細な研究成果が信州大学環境科学年報42号(2020)に、渡邉和輝さんと大塚勉さんにより発表がされています。下記リンクにあります。(資料4)
(根澤茂)
(資料1) 長野県佐久地域振興局農地整備課が、子ども達の用水見学会のため、作成した「水源林」てなに、はこちらから(PDF:1,141KB)
(資料2)粘土について詳しい説明の後藤逸男東京農業大学名誉教授の『土の元素組成と粘土鉱物』農業技術通信社の内容はこちら(外部サイト)
(資料3)粘土の役割について、阿江教治農業博士の『土づくりのススメ―深堀!土づくり考』で粘土の特別な働きについての説明はこちら(外部サイト)
(資料4)佐久平の地質について、渡邊和輝・大塚勉さんの『長野県東信地域における第四紀の地質構造』(信州大学環境科学年報42号)はこちら(PDF:11,422KB)
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社会教育部 文化振興課
電話:文化振興・文化施設係:0267-62-5535 文化財保護・文化財調査係:0267-63-5321
ファックス:文化振興・文化施設係:0267-64-6132 文化財保護・文化財調査係:0267-63-5322