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第32回 古文書の中の国難や天災と佐久

更新日:2023年2月9日

佐久は歴史の宝庫 古文書の中の意外な歴史

日本の危機に佐久の先人は
 古文書は様々な歴史を語ってくれます。口絵写真は鎌倉時代弘安2年(1279)、九州に押し寄せた蒙古の大軍から、国土防衛のため死力を尽くす鎌倉武士団の記録、皇室が収蔵している『蒙古襲来絵詞』です。
 画面は新幹線佐久平駅に近い、当時の佐久郡長土呂郷を領していた島津氏・有坂氏が、今まさに蒙古の軍船に挑みかかろうという晴れ姿です。
 この薩摩守島津氏と有坂氏ですが、『新編長門町誌』(平成元年10月・新編長門町誌刊行会)に、『信濃史料』第5巻の『守矢文書』から、嘉歴4年(1329)に小県郡有坂郷と、佐久郡長土呂郷を領していた薩摩五郎左衛門と、同じ史料の『大徳寺文書』に登場する有坂左衛門五郎は、同じと推定していることから、(引用『上田小県誌第1巻歴史編上』)、外敵の襲来という国難に際し、佐久からも一族を挙げて、遥々出征して行ったようです。
 このように、忘れられていた歴史を、先人の残した古文書の行間に見出すことがあります。

天保5年五郎兵衛新田村「御用向留書」から

天明の大飢饉の経験が生かされて
 古文書ですが、江戸時代の地方末端行政が残した公文書に、「村御用留」という代官からの触書や通達、他村からの連絡、村の決まり等、当時の村役がこと細かく書き残している公的記録があります。
 口絵写真の『天保5年御用向留』が、江戸時代の五郎兵衛新田村で作成されたのは、未曽有の大飢饉のさ中でした。その飢饉は天保4年(1833)に始まり、天保6年から8年にかけて大飢饉となり、 享保の大飢饉、天明の大飢饉と合わせ、江戸三大飢饉といわれる巨大災害でした。
 この天保の大飢饉を、五郎兵衛新田村の『村御用留』から確認すると、代官も村役人も立場を超え、人々は天明3年の大飢饉(1784)の経験を活かし、大惨事が再び繰り返さないよう協力して様々なことを進めています。

大災害に立ち向かう心を忘れないために 
 天保の大飢饉の始まりは、天保4年(1833)9月の関東・奥羽大風雨でした。被害を更に拡大したのは、天保6年1月に日本から見てほぼ地球の反対側、中米ニカラグアにあるコシグイナ火山大噴火により、太陽からの光線が遮られ、気温の低下が重なったことでした。
 佐久平での異常気象の記録に、川上村では積雪が3メートル、平地では夏に至っても薄日で肌寒く、そのため米穀の収穫が半減という大災害でした。『佐久市志』『川上村誌』
 この時祖先たちは、50年前に発生した天明の大飢饉の教訓を生かし、助け合ってこの難局を乗り越えています。
 そして天保の大飢饉が、天明3年浅間山大噴火による天明の大飢饉と、異常気象や災禍が似通っていたことから、絵の才能が豊かだった岩村田藩領の文人池田良臣は、中山道塩名田宿本陣問屋丸山新右衛門の求めに応じ、50年前の天明の浅間山大噴火を、時系列に捲り絵に描き、のちの人々が天災で判断に迷わないよう、様々な警句もその余白に残しています。
 

二度と食糧難による災禍を繰り返さないため
 丸山新左エ門と池田良臣が後世の人に残した教訓に、食料の備蓄があります。
 それというのも、天明の大飢饉の酷さとして、通常銭100文(約1,152円)で白米が1升2合買えたのが、買い占めと売り惜しみにより、同じ100文で白米が2合5勺から3合の高騰となり、大勢の餓死者と、江戸市中ではいたるところで、打壊し騒動が発生しました。『縮地千里』
 その反省から、幕府も寛政元年(1789)飢饉に備え、食糧備蓄を推進する施策を具体化していた中、御用留では天保5年8月幕府代官から、五郎兵衛新田村が凶作に備え備蓄していた米穀を、食料に困窮した人々に融通したことが、飢饉と米価高騰対策の他の見本だとして、江戸勘定奉行所衆に大変評価されて嬉しいことであると代官から褒美状が出されています。

大飢饉の災禍にあっても公への奉仕
 五郎兵衛新田村の『天保4年御用向留書』には、千曲川往還橋組合の記述が大変多く残されています。
 それというのも、洪水の都度甚大な被害が生じる橋のため、中山道最大の難所といわれた千曲川往還橋を、24時間無料で安全に通行できるよう維持管理することが、幕府領、小諸藩・岩村田藩・田野口藩と支配は違っても、佐久平全体の人々の連帯責任だったからです。
 地域の村々は、大洪水と大飢饉で今日を生きるのが大変な中、それぞれが管理を命ぜられている地元地域の橋の再建、また五郎兵衛新田村にあっては、被災した用水路の復旧がありながら、人々は何より大切なこととして、中山道千曲川往還橋の再架橋のため、力を合わせて難事業を成し遂げていたことが知れるのがこの『御用向留書』です。 (根澤茂)

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